傘の縫製の難所“中縫い”
傘づくりの縫製工程で、特に重要なのが「中縫い」です。中縫いは、傘生地を三角にカットしたコマ(小間・駒)同士を縫い合わせる工程。縫い合わせたコマ同士をさらに縫い合わせていくことで、傘の形状になります。
中縫いは傘のフォルムの美しさを決めるキーポイントです。コマは真っすぐではなく、カーブになっています。それを縫い合わせていくことでゆるやかなドーム状の傘になります。この立体的な形状を意識しながら、コマを均一に縫い合わせていきます。
ピタッとコマがきれいに縫い合わされていないと、傘を開いたときにシワができてしまいます。美しい傘にならないのです。さらに、縫い目が粗いと漏水してしまうこともあります。これではそもそも傘の役目を果たしません。中縫いは傘の質を左右する重要な工程なのです!
頼りになるのは感覚!
カムアクロスには「なにわの名工」にも選ばれた渡邉政計、川下昭の二人の傘職人がいます。その二人のもとで修行中の綿引哲朗に話を聞いてみると、「縫って縫って経験や!ってと言われてます」とのこと。機械に取り付けて、ダーっと自動で縫っていけないものかと思ってしまうところですが……。
「撥水加工が施されていたり、生地によって硬さや滑りやすさが違います。だから常に手の感覚でコマを合わせて微調整しながら、同じリズムでミシンをはしらせていかないと、どこかにズレが生じてしまうんですよね」。生地は素材の違いに加え、織り目の方向によってコマの長さが違ったりすることもあって、きちんと合わせて縫うには熟練の技術を要します。
さらに中縫いの縫い目は、3cm間に12目以上と決められています。その上、カムアクロスでは日本製の「超々撥水糸」を使用しています。中縫いは特殊な単環縫いミシンを使用するので、糸の撚り方も通常の糸とは逆。そうしたなかで、どんな難しい生地でも漏水せず、美しいフォルムが生まれるように中縫いをしています。
ちなみに中縫いには、ウナギの蒲焼きのように関西と関東で違いがあります。傘の外側、つゆ先が付くほうから縫っていくのが「関西縫い」。カムアクロスもこの縫い方です。一方、傘の中心、石突きが付くほうから縫っていくのは「関東縫い」と呼ばれます。中国をはじめとする海外製の傘はほとんどは関西縫い。日本から技術を伝えた人に関西の人が多かったからだと言われています。
普段、傘を使っていてもなかなか注目することのない縫製。なかでも中縫いは、職人の技術が品質を大きく左右する傘づくりの要所です。その繊細な技を、傘を広げたときにチェックしてみてください。